第22回 本田 實(ほんだ みのる)[1913-1990]
《「天体発見王」と呼ばれた世界的アマチュア天文家》

第22回は、「天体発見王」と呼ばれた世界的アマチュア天文家 本田 實(ほんだ みのる) [1913-1990]を取り上げました。
《生涯に彗星12個、新星11個を発見したコメットハンター》
ぜひご一読ください。
彗星12個・新星11個を発見し、「天体発見王」と呼ばれたアマチュア天文家の本田實(本田実)は、1913(大正2)年に鳥取県八頭郡八東村(現・八頭町)の農家に生まれました。中国山地の谷間からきれいな星空を見上げて育った實は、10歳の頃から星への興味を抱き始め、お小遣いを貯めて14歳の時に口径28ミリのレンズを購入。自分で望遠鏡を作り土星の環や木星の衛星、太陽の黒点などを観察しました。そして17歳の頃、神田茂著『彗星の話』に出合い、日本人による彗星の発見が少ないことを知り、コメットハンター(彗星探索家)になることを決意。尋常高等小学校卒の實は自作の望遠鏡を使い、独学で彗星探しを始めました。
1932(昭和7)年、自作望遠鏡で見つけた金星のそばにある光を彗星と思い、京都帝国大学(現・京都大学)花山天文台に報告しましたが、それはレンズの反射光だと指摘され、これを契機に花山天文台長・山本一清博士の指導を受けることになりました。1936(昭和11)年、實は山本博士が開設した「黄道光観測所」(現・福山市瀬戸町長和)の観測員になり、日食や黄道光の観測の合間に彗星探しをしました。後に妻となり實の活動を支えた、観測所近くに住む宮宗慧と出会ったのもこの時期でした。
福山の観測所時代の 1940(昭和15)年、初めて新彗星「岡林・本田彗星」を発見。翌年、日本初の民間天文台である倉敷天文台の台員になり慧と結婚しましたが、すぐに出征しました。
1942(昭和17)年、戦地のシンガポールでイギリス軍が残したレンズを使って望遠鏡を作り、周期彗星を発見(グリッグ・シェレルップ彗星の再発見)。日本でも話題となり慧夫人に無事を知らせることができました。
復員後、慧夫人の実家(現・福山市瀬戸町長和)の庭に観測所を作り、1947(昭和22)年に福山の地で戦後初の新彗星「本田彗星」を発見。實の快挙は敗戦で自信を失っていた日本人に大きな勇気を与えました。1952(昭和27)年、倉敷天文台主事になり、1968(昭和43)年には12個目の彗星を発見。實に刺激された日本人アマチュア天文家たちの多数の彗星発見によって、「彗星王国日本」と言われました。1970(昭和45)年には初めて新星「へび座新星」を発見。しかし都市化が進んで倉敷の街が明るくなり、新星等の発見が困難になると、實は1973(昭和48)年からは彗星から新星探しに重点を移し、暗い空を求めてワゴン車での移動観測を始めました。そして、1970年代から80年代にかけて11個もの新星を発見しました。1981(昭和56)年には岡山県上房郡賀陽町(現・加賀郡吉備中央町)内の黒岩山山頂に私費で観測小屋を建設、後に「星尋山荘」と名付けて天体観測を続けました。
雨の日と満月の夜以外は観測を休まなかった實は、1990(平成2)年、倉敷天文台で観測データの整理中に仮眠ベッドの上で静かに星空へと旅立ちました。實と慧夫人、そして星尋山荘の名前が付けられた小惑星があるように、實の偉業は今でも世界の天文家たちの間で語り継がれています。
写真提供 : 公益財団法人 倉敷天文台
黄道光観測所
(現・福山市瀬戸町長和)
写真提供 : 公益財団法人 倉敷天文台
※彗星(コメット) 太陽の周りをまわる、氷や塵などでできた小天体。日本では、掃除に使う「竹ぼうき」に似ていることから「ほうき星」とも呼ばれる。
※周期彗星 太陽を焦点の一つとして楕円軌道を描き、一定の周期で太陽に近づく彗星。
※神田茂 天文学者。アマチュア天文家の指導者として知られ、「西の山本一清、東の神田茂」と言われた。
※山本一清 天文学者。プロの天文学者とアマチュア天文家の橋渡し役として天文学の発展に貢献し、「アマチュア天文学の父」と呼ばれる。
※黄道 太陽が地球の空上を一年かけて移動する道筋。
※黄道光 日没後の西の空と夜明け前の東の空に、黄道に沿って見られる淡い舌状の光の帯。
※日食 月が太陽の前を横切るために、月によって太陽が欠けて見えたり、あるいは全く見えなくなる現象。
※名前の付いた小惑星 本田實、慧夫人、星尋山荘の名前の付いた三つの小惑星、(3904) 本田、(8485) 慧、(11442) 星尋山荘があります。
[( )内は小惑星番号]
《参考文献》
・『コメットハンティング 新彗星発見に挑む』
えびなみつる
誠文堂新光社 2011年
・『彗星の話』
冨田弘一郎
岩波書店 1977年
・『今よみがえる郷土の偉人たち』
子どもが科学に親しむ場を創る会(出版部会) 2022年
《協力》
・公益財団法人 倉敷天文台
・神谷和孝氏(福山文化連盟 副会長)
[初出/FMふくやま月刊こども新聞2023年9月号]