第23回 浅野 応輔(あさの おうすけ)[1859-1940]
《日本の電気工学の先駆者 「電気工学三羽烏」の一人》

第23回は、日本の電気工学の先駆者 「電気工学三羽烏」の一人 浅野 応輔(あさの おうすけ) [1859-1940]を取り上げました。
《大隅・台湾間に海底ケーブル敷設/長崎・台湾間の長距離無線通信に成功》
ぜひご一読ください。
日本の電気工学を築いた三羽烏の一人で、無線工学の先覚者でもある浅野応輔(浅野應輔)は、1859(安政6)年、現在の岡山県倉敷市茶屋町で医師・大野意俊の三男として生まれました。4歳の時に父を亡くしたため、福山で医師をしている叔父・浅野玄岱の養子となり、成長とともに藩校誠之館(現・福山誠之館高校)で学び、その後1881(明治14)年、工部大学校(現・東京大学工学部)電信科を卒業しました。
卒業の翌年、同校助教授になりますが、2年後に健康を害し逓信省に転任。その後、東京電信学校教授兼幹事を経て、1891(明治24)年、逓信省電気試験所(現・産業技術総合研究所)初代所長に就任しました。1894年(明治27)年、応輔は電気事業調査のため欧米各国へ派遣され、その途中、近代の大事業であった大西洋横断海底ケーブル敷設工事を視察しました。帰国後は、電気工作物に対する保安取締りのための電気事業取締規則などの制定にも尽力しました。そして、政府が当初イギリスに任せる予定であった鹿児島県の大隅・台湾間(約1,400km)の海底電信ケーブルの敷設は、応輔自ら工事責任者となり、工事設計や敷設作業を指導。1897(明治30)年に見事完成させたことで、世間に広く名が知られると同時に高い評価を得ました。
また同時期、応輔が無線研究を行うきっかけとなった出来事がありました。それは、イタリアの発明家・マルコーニが電波による通信である無線通信の公開実験に成功したという海外雑誌の記事でした。その頃の通信は「トン・ツー」という音声信号を電線を通して遠隔地に送る有線通信でしたが、記事を読んだ応輔は無線通信の重要性に気づくと、すぐ部下に無線通信の研究を命じ、送信機と検波器を含む受信機を作らせました。そして1897(明治30)年、送信機を東京の月島に、受信機を品川お台場に置いて、日本最初の無線通信実験(約1.8 km)を成功させました。その後も電気研究所の無線研究は大いに進み、改良が重ねられ、1900(明治33)年には東京湾内の谷津・浦賀間(約54km)の無線通信実験を行うなど、マルコーニの実験に匹敵する成果を挙げました。
1903(明治36)年、応輔は日本で最初の検波器である「水銀検波器」を発明し、それを用いて長崎・台湾間(約1,200km)の長距離無線通信に成功。この長距離無線通信は、マルコーニの大西洋横断無線通信に次ぐ快挙となりました。
一方で、東京帝国大学工科大学(現・東京大学工学部)教授や早稲田大学理工学部長等を歴任。1910(明治43)年には無線通信に関する功績により、ドイツ皇帝から星章付王冠二等勲章を贈られました。
日本の無線通信技術の基礎を築いた応輔は、電気通信分野の草分けとして極めて重要な数多くの業績を挙げ、国際的に活躍。近代日本における電気工学の発展に大きく貢献しました。
出典 : 『工学博士 浅野應輔先生伝』
工学博士浅野應輔先生伝記編纂会(1944年)
日本初の無線通信実験
(写真提供:郵政博物館)
出典 : 『工学博士 浅野應輔先生伝』
工学博士浅野應輔先生伝記編纂会(1944年)
※検波器 無線送信機からの電波をキャッチする受信機の中で電波を検出し必要とする信号に変換する装置
※ 工部大学校(現・東京大学工学部)
明治政府が創設した工業技術教育機関で、わが国の発展に貢献した優秀な技術者を多数輩出しました。
1878(明治11)年、イギリス人のウィリアム・エドワード・エアトン教授の指導の下、電信科3期生の藤岡市助、中野初子、浅野応輔の3人が、初期の一次電池であるグローブ電池50個を使い、わが国で初めて電灯(アーク灯)を点灯させました。
※ 電気工学三羽烏
①国産初の白熱電球を作り「日本のエジソン」と言われた藤岡市助
②国産初の大容量発電機を設計した中野初子
③ 無線工学の先覚者の浅野応輔
この3人は、工部大学校(現・東京大学工学部)電信科の3期生で「電気工学三羽烏」と言われました。
※ 浅野玄岱 応輔の養父となった叔父の浅野玄岱は、1869(明治2)年に、現在の福山市伏見町に開設された「同仁館」病院 で医官として従事しました。
「同仁館」は福山藩の医学校兼病院として、西洋医学の教育機関であると同時に一般庶民の診察も行う近代的な医療機関でした。
《参考文献》
・『工学博士 浅野應輔先生伝』
工学博士浅野應輔先生伝記編纂会 1944年
《協力》
・郵政博物館
[初出/FMふくやま月刊こども新聞2023年10月号]