第10回 足利 瑞義(あしかが ずいぎ)[1872-1944]
《 シルクロード探検の「大谷探検隊」隊員 》

第10回は、シルクロード探検の「大谷探検隊」隊員 足利 瑞義(あしかが ずいぎ)[1872-1944]を取り上げました。
《童謡「かもめの水兵さん」のモデル》
ぜひご一読ください。
仏教は、インドからシルクロード(絹の道)を通じて中国に、そして日本に伝えられました。明治から大正にかけて、仏教伝来の経路と仏教遺跡の調査等のため、シルクロードが通る中央アジアを中心に、アジア全域にわたって踏査した西本願寺の「大谷探検隊」は世界探検史に大きな足跡を残しました。この大谷探検隊の一員に、福山出身の足利瑞義(勝願寺住職)がいました。
1902(明治35)年、西本願寺門主・大谷光瑞は、イギリス留学中の25歳の時、アジアはヨーロッパ諸国の植民地にされバラバラの状態でしたが、仏教を通してアジアとしてのまとまりを求めようとしました。光瑞は、その歴史的な繋がりを確かめるため、広大なアジア大陸に直接出かけ仏教の遺跡を調べようと考え、青年僧侶たちで大谷探検隊を組織。1902(明治35)年から1914(大正3)年までの13年間に3回、20数人の青年僧侶たちによって大規模な探検が行われました。当時は、イギリスのスタインやスウェーデンのヘディンなどヨーロッパの探検家たちがしのぎを削る、アジア探検が盛んな時代でした。その中で大谷探検隊の活動は、世界に例をみない広範囲のアジア学術調査でした。当時の日本人の多くが知ることのなかった砂漠や草原、氷河のある高山地帯にまで調査は及びました。まさしく青年僧侶たちによる決死の探検だったのです。この探検隊がもたらした貴重な学術資料は、東京国立博物館や龍谷大学などにおさめられています。
足利瑞義は、京都の西本願寺を代表する学僧[学問に優れた僧]勧学・足利義山の三男として、1872(明治5)年、深津県西中条村(現・福山市神辺町西中条)の勝願寺に生まれました。姉に京都女子大学創始者の甲斐和里子がいます。1894(明治27)年、大学林(現・龍谷大学)を卒業後、ロシアに留学。ロシア帰国後は、文学寮(現・龍谷大学)教授などに任命され、大谷光瑞が、瑞義の父・義山の教え子であったという縁から、瑞義は光瑞の側近として活躍、第1次大谷探検隊のインド仏教遺跡調査で得られた資料の整理を担当しました。
日露戦争が終わって4年後の1909(明治42)年、瑞義は第2次大谷探検隊のメンバーとして、インドとシルクロードを結ぶヒマラヤ山脈西側の山岳地域カシミールまで、大谷光瑞に同行しました。そして、そこから仏教遺跡の調査を開始、仏教の発祥地であるインドのガンジス川流域まで調査しました。
帰国後の瑞義は、仏教大学(現・龍谷大学)学長や西本願寺実務トップの執行長に就任するなど、数々の要職を歴任、1937(昭和12)年には、父・義山と親子2代にわたって学僧としての最高位「勧学」に任じられ、1939(昭和14)年には再び龍谷大学学長に就任しました。瑞義は死後も「尊い人だった」と周囲に語られるほど、高徳の人でした。
現在、大分県別府市大谷公園には、大谷探検隊顕彰碑が建てられており、瑞義ら隊員たちの顔写真や探検内容が紹介されています。
写真提供:足利義信氏(勝願寺住職)
内モンゴルを行く大谷探検隊
勝願寺(福山市神辺町西中条)
足利瑞義和上の書『六字名号』
※童謡『かもめの水兵さん』 1933(昭和8)年、ハワイへ旅立つ瑞義を見送りに来た姪の武内俊子は、横浜港メリケン波止場で、たくさんの白いカモメが飛び交い、夕日に映えてとてもきれいだった情景をもとに、童謡「かもめの水兵さん」を作詞。大ヒットし、童謡レコード売上1位となりました。
♪ かもめの水兵さん ならんだ水兵さん
白い帽子 白いシャツ 白い服
波にチャップ チャップ うかんでる ♬
《参考文献》
・『特別展 二楽荘と大谷探検隊 シルクロード研究の原点と隊員たちの思い』
龍谷大学 龍谷ミュージアム 2014年
・『大谷探検隊とその時代』
白須浄眞
勉誠出版 2002年
・『西域 探検の世紀』
金子民雄
岩波書店 2002年
・『忘れられた明治の探検家 渡辺哲信』
白須浄眞
中央公論 1992年
・『シルクロードに仏跡を訪ねて 大谷探検隊紀行』
本多隆成
吉川弘文館 2016年
・『シルクロード探検』
長沢和俊 編
白水社 1978年
・『中央アジア探検史』
深田久弥
白水社 1971年
・『大谷探検隊と本多恵隆』
本多隆成
平凡社 1994年
・『太陽 6月号 No.360 特集 大谷探検隊』
平凡社 1991年
・『阿弥陀が来た道 百年目の大谷探検隊』
佐藤健
毎日新聞社 2003年
・『大谷光瑞東京国際政治社会 チベット・探検隊・辛亥革命』
白須浄眞 編
勉誠出版 2011年
・『中国辺境歴史の旅8 西域旅行日記』
堀賢雄
白水社 1987年
・『目の眼2月号 No.172 特集 西域探検のあけぼの』
里文出版 1991年
・『lかもめの水兵さん 武内俊子 伝記と作品集』
武内邦次郎
講談社出版サービスセンター 1977年
《協力》
・勝願寺
・龍谷大学 龍谷ミュージアム
[初出/FMふくやま月刊こども新聞2022年6月号]