歴史から学ぶ「福山」郷土の偉人たち

第30回 木下 夕爾(きのした ゆうじ)[1914-1965]

《「在郷の詩人」「郷愁の田園詩人」俳人としても活躍》

PDF

         

第30回は、「在郷の詩人」「郷愁の田園詩人」俳人としても活躍 木下 夕爾(きのした ゆうじ) [1914-1965]を取り上げました。
小学校3年生の国語の教科書に取り上げられた「ひばりのす」
ぜひご一読ください。
    
    詩人の木下夕爾は、1914(大正3)年、広島県深安郡上岩成村(現・福山市御幸町上岩成)に、父常一、母あやの次男(本名/優二)として生まれました。5歳の時に父を事故で亡くしますが、母は2年後に父の弟で薬剤師の逸と再婚。義父にとても可愛がられ、腕白でひょうきんな子供時代を過ごした夕爾は、岩成尋常小学校(現・福山市立御幸小学校)を経て、1927(昭和2)年、府中中学校(現・広島県立府中高等学校)に入学すると詩に熱中、級友たちと詩歌集を発行しました。
    1932(昭和7)年、中学を卒業した夕爾は文学の道に進むため上京。月刊投稿文芸誌『若草』等に夕爾の詩・短歌・小品が載るようになり、詩人の堀口大学に認められると投稿詩人の間で有名になりました。1933(昭和8)年、第一早稲田高等学院(現・早稲田大学高等学院)文科に入学、たくさんの同人詩誌に詩を発表しました。
    1935(昭和10)年、結核で倒れた義父の薬局を継ぐため、夕爾は早稲田を中退し、愛知高等薬学校(1年後、名古屋薬学専門学校に改称、現・名古屋市立大学)に入学しました。夕爾は『若草』への投稿を再開し『文芸汎論』にも登場、さらに詩人の梶浦正之主宰『詩文学研究』にも参加しました。
    1938(昭和13)年、名古屋薬学専門学校を卒業した夕爾は帰郷。薬局を継ぎ、その後一度も故郷を離れることなく「在郷の詩人」として生涯を送りました。1939(昭和14)年には、第1詩集『田舎の食卓』を刊行。翌年、第6回文芸汎論詩集賞を受賞し一躍脚光を浴びると、同年に第2詩集『生れた家』を刊行しました。
    1945(昭和20)年、夕爾は敗戦間近に隣村の加茂村に疎開してきた小説家・井伏鱒二と親交を深めました。井伏の下に木山捷平(小説家・詩人)、小山祐士(劇作家)、村上菊一郎(フランス文学者・詩人)、藤原審爾(小説家)らの近辺疎開文士が集まると、夕爾もその仲間に入り生涯で最も刺激的で楽しい日々を過ごしました。1946(昭和21)年、戦前の詩を中心とする第3詩集『昔の歌』を刊行しましたが、やがて疎開文士たちは全員帰京してしまいました。
    1949(昭和24)年、残された夕爾は、喪失感を抱えながらも仲間を募り、同人詩誌『木靴』を創刊、同年に第4詩集『晩夏』を刊行。そして、1955(昭和30)年、かつて国語の教科書に掲載の「ひばりのす」を含む第5詩集『児童詩集』を刊行。最も広く読まれたこの詩集の影響で、夕爾は「郷愁の田園詩人」と言われました。1958(昭和33)年、第6詩集『笛を吹くひと』を刊行、翌年には広島県詩人協会の初代会長になりました。
数多くの小中学校校歌の作詞も手がけた夕爾は、1965(昭和40)年、50歳で死去。翌年刊行された『定本 木下夕爾詩集』は、第18回読売文学賞を受賞しました。
    また、夕爾は地元の各所で句会を作り俳句の指導にあたるとともに、それらを統合して広島春燈会を結成。句誌『春雷』の創刊や句集を刊行するなど、俳句の世界でも高い評価を得ました。
    
    

写真提供 : ふくやま文学館
    

井伏鱒二(左)と木下夕爾(右)
(写真提供:ふくやま文学館)
    

『児童詩集』
(写真提供 : ふくやま文学館)
    

「ひばりのす」
    
    
※最後の詩 1965(昭和40)年、病床で書いた原爆詩「長い不在」は、死の翌日の中国新聞で発表されました。

    
※俳句 夕爾は詩友を持たない淋しさから戦時下で俳句を作り始め、戦後の1946(昭和21)年、俳人の安住敦(あずみ あつし)に誘われて、作家で俳人の久保田万太郎(くぼた まんたろう)主宰の句誌『春燈』に参加しました。1956(昭和31)年に第1句集『南風抄』を、3年後には第1句集を含む句集『遠雷』を刊行し、俳壇で高い評価を得ました。死後の1966(昭和41)年には『定本 木下夕爾句集』が刊行されました。
    
※句会 1952(昭和27)年、芦品郡駅家町(現・福山市駅家町)で句会「六日会」を結成。1956(昭和31)年、「府中市俳句懇話会」を結成。 1958(昭和33)年、芦品郡新市町(現・福山市新市町)で句会「早苗会」、福山市御幸町で「御幸句会」を結成。
    
    
《参考文献》
・『生誕100年 木下夕爾への招待 ー乾草いろの歳月ー』
  ふくやま文学館 2014年
    
・『在郷の詩人 木下夕爾』
  ふくやま文学館 2002年
    
・『木下夕爾追悼記念誌 含羞の詩人 木下夕爾』
  木下夕爾を偲ぶ会実行委員会
  福山文化連盟 1975年
    
・『露けき夕顔の花 詩と俳句・木下夕爾の生涯』
  栗谷川 虹
  みさご発行所 2000年
    
・『詩人・木下夕爾』
  九里順子
  翰林書房 2020年
    
・『木下夕爾』
  ロバート・エップ
  児島書店 1993年
    
・『児童詩集』
  木下夕爾
  児島書店 1990年
    
・『菜の花いろの風景 木下夕爾の詩と俳句』
  朔多 恭
  牧羊社 1981年
    
・『木下夕爾の俳句』
  朔多 恭
  牧羊社 1991年
    
・『蝸牛 俳句文庫 木下夕爾』
  朔多 恭
  蝸牛社 1993年
    
・『木下夕爾の百句』
  鈴木直充
  ふらんす堂 2023年
    
    
《協力》
・ふくやま文学館
    
    
[初出/FMふくやま月刊こども新聞2024年6月号]