歴史から学ぶ「福山」郷土の偉人たち

第47回 田辺 聖子 (たなべ せいこ)[1928–2019]

《福山にルーツを持つ文化勲章を受章した国民的作家》

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第47回は、福山にルーツを持つ文化勲章を受章した国民的作家 田辺 聖子(たなべ せいこ)[1928–2019]を取り上げました。
《福山出身の祖父が創業した写真館で生まれ育ち、人間観察力を磨く》
ぜひご一読ください。
    
    「おせいさん」の愛称で親しまれた田辺聖子 は、大阪弁の軽妙な語り口で、恋愛や結婚生活にまつわる人間心理を温かく描いた人気作家です。そのルーツは広島県福山市にあります。
    聖子の祖父・田辺(田邊)美男は、1882(明治15)年、現在の福山市御幸町中津原・新茶屋の井溝川沿いにあった油屋の一人息子として生まれました。[現在、田辺本家は葬祭会社を経営]早くに父を亡くし、明治維新後の社会変動により家業が立ち行かなくなったため、母(聖子の曽祖母)を伴い、一旗上げようと大阪へ出ました。商家の丁稚となりますが、負けん気が強く才覚に溢れた美男は、新しい商売として写真屋を選択。写真技術を学び、中之島公園で花見客などを相手にスナップ写真を撮る街頭写真屋から身を起こし、その後、写真館を開業。やがて大阪の福島西通りに、ハイカラな洋館風の「田辺写真館」を新築するまでに事業を発展させました。
    1928(昭和3)年、聖子は父・田辺貫一と母・勝世(福山市に隣接する岡山県井原市芳井町出身)の長女として、写真館で生まれました。そして曽祖母や祖父母、両親や弟妹、叔父叔母、写真技師たちのいる大所帯の中で育ちました。聖子のエッセイ『田辺写真館が見た“昭和”』(文藝春秋/2005年)に、写真館を舞台に自由でハイカラな戦前昭和の空気や家族の姿、そして懸命に生きる庶民の暮らしなどが綴られています。大阪の風俗文化に深く親しみながら育った写真館での生活が、人間味溢れる楽観主義や優れた人間観察力、さらには人間を丸ごと受け入れる無条件の肯定といった、後の作家活動の基盤を形づくったものと思われます。
    聖子は、樟蔭女子専門学校(現・大阪樟蔭女子大学)卒業後、金物問屋に勤務しながら、同人誌に原稿を送り始め、退社後は大阪文学学校で学びながら、作家としての基礎を固め、創作活動を本格化させました。1964(昭和39)年、『感傷旅行(センチメンタル・ジャーニイ)』で第50回芥川賞を受賞。以後、恋愛小説(『ジョゼと虎と魚たち』『言い寄る』等)からエッセイ(『ああカモカのおっちゃん』『残花亭日暦』等)、評伝(『ひねくれ一茶』等)、古典の現代語訳(『新源氏物語』等)まで幅広いジャンルで執筆活動を行い、大阪を舞台にした作品や古典への造詣の深さをその特徴としています。また、『スヌー物語』を著すほど、無類のスヌーピー好きで知られました。
    2006(平成18)年から翌年にかけて放送されたNHK連続テレビ小説『芋たこなんきん』は、聖子の半生をもとに制作。ドラマの中で、福山出身の祖父や曽祖母、そしてモダンな父たちが織りなす賑やかな大家族の暮らしが描かれました。聖子がモデルの主人公には藤山直美、祖父役を岸部一徳、曽祖母役を淡島千景、父役を城島茂、母役を鈴木杏樹と香川京子が演じました。
    2007(平成19)年、母校の大阪樟蔭女子大学に「田辺聖子文学館」が開館。2008(平成20)年には、長年の執筆活動の功績により文化勲章を授与されました。
    
    

「田辺聖子文学館」開館式典会場にて(2007年)
〈写真提供 : 大阪樟蔭女子大学 田辺聖子文学館〉
    

田辺写真館(1928年頃)
〈写真提供 : 大阪樟蔭女子大学 田辺聖子文学館〉
    

出征する従業員を家族で歓送(1938年)
[左端が田辺聖子、1人おいて聖子の父、祖父、叔母、弟、曽祖母、妹]
〈写真提供 : 大阪樟蔭女子大学 田辺聖子文学館〉
    

セレモニーホール田辺の「田辺聖子文庫」
    

「はるかな ふるさと」と題し、郷土誌『福山市御幸町 新茶屋町内物語』(1992年)に序文を寄稿
    
    
《参考文献》
・『私の父、私の母』
  田辺聖子 他
  中央公論社 1994年
    
・『田辺写真館が見た“昭和”』
  田辺聖子
  文藝春秋 2005年
    
・『楽天少女 通ります 私の履歴書』
  田辺聖子
  日本経済新聞社 1998年
    
・『NHK連続テレビ小説 芋たこなんきん 上巻・下巻』
  田辺聖子/長川千佳子/丸山智子
  講談社 2006年
    
・『増補改訂版 福山市御幸町 新茶屋町内物語』
  福山市御幸町新茶屋 町内物語編集委員会 1992年
    
    
《協力》
・ 大阪樟蔭女子大学 田辺聖子文学館
    
・田辺美奈氏
    
・田辺葬祭
    
・亀井克明氏
    
    
[初出:FMふくやま月刊こども新聞2026年2月号]