歴史から学ぶ「福山」郷土の偉人たち

第14回 宮地 伝三郎(みやじ でんざぶろう)[1901-1988]

《日本の動物生態学の開拓者》

PDF

         

第14回は、日本の動物生態学の開拓者 宮地 伝三郎(みやじ でんざぶろう) [1901-1988]
を取り上げました。
《サル学研究の基礎を築く/日本モンキーセンター所長等を歴任》
ぜひご一読ください。
    
    動物生態学者の宮地伝三郎は、1901(明治34)年、広島県御調郡中庄村(現・尾道市因島中庄町)に生まれました。因島の自然の中でのびのびと育った伝三郎は、高等小学校卒業後、福山中学校(現・福山誠之館高校)に進学するため、因島を出て寄宿舎に入ることになりました。寄宿舎での生活は、起床から就寝まで規則正しく、外出できるのは日曜日だけという厳しいものでした。田舎育ちの伝三郎は、町育ちの友人たちが福山城下にある女学校の下校時を見計らい、ラブレターを渡しに出かける行動力に引け目を感じていました。そうした劣等感をバネに勉強に集中した結果、1年生の終わりには学年トップになり、卒業までその成績をキープしました。
    福山中学校卒業後、岡山県にある第六高等学校(現・岡山大学)に進学。先生の影響を受け、東京帝国大学(現・東京大学)理学部動物学科に進みました。
    1925(大正14)年、ドジョウの皮膚感覚器に関する卒業論文を提出し、東大を卒業するとすぐに京都帝国大学(現・京都大学)理学部講師として滋賀県琵琶湖のほとりにある京大の大津臨湖実験所(現・生態学研究センター)に赴任。湖底生物を指標とした湖沼環境の研究をするとともに、千島列島や南樺太の陸水調査旅行及びヨーロッパ各地で開催された国際会議に出席して見聞を広めました。
    1936(昭和11)年、京大助教授となり、和歌山県白浜の京大瀬戸臨海研究所(現・瀬戸臨海実験所)で、田辺湾などの内湾生物の調査や内湾特有の環境の研究を行いました。
    1942(昭和17)年、京大教授に就任し動物学教室を担当。伝三郎は、それまで行っていた自身の野外研究を止め、後進の育成に積極的に取り組みました。動物学教室の運営では新しい取り組みとして、最初からそれぞれの分担をはっきり決めず、ひとつの大きなテーマにみんなが様々な知恵を出し合い、その中から各自が研究の焦点を絞っていくという自主性を重視した「グループ研究」を推進しました。その大きな成果として、アユとサルの研究があります。アユは、なわばり制の社会を作り、本能型・非学習型のいわゆる種族保存を繰り返すだけの動物であるのに対して、サルの社会は順位制で、文化型・学習型であるという違いがあります。伝三郎は、動物社会のこの2つの典型をグループ研究の対象とし、アユの研究では、アユの生活史と行動様式を解明しました。サルにおいては、京大霊長類研究所(現・ヒト行動進化研究センター等)と、サルに関する総合的な研究や野生ニホンザルの保護を目的とした日本モンキーセンターの創設に関わり、ニホンザルの生態研究や共同研究の指導を通して、霊長類学や人類学の発展に貢献しました。  
    1964(昭和39)年、伝三郎は京大を定年退官後も、日本生態学会会長や日本モンキーセンター所長を長年にわたり務め、日本の動物生態学の発展に尽力しました。
    

京都大学生態学研究センターの共同利用・共同研究資料を利用
    

『アユの話』
    

『サルの話』
    

『俳風動物記』
    

『宮地伝三郎動物記』全5巻
    
    
※一般読者向けの本 『アユの話』『サルの話』『俳風動物記』『宮地伝三郎動物記』(全5巻)など。
    
※福山中学校時代 女学校の下校時にラブレターを渡しに行く友人だけでなく、芦田川の堤で出会う女学生の前で不意に逆立ち、その足を女学生に支えてもらったのを契機に交際を始めた勇敢な(?)友人がいたりして、田舎育ちの伝三郎は相当面食らったようです。
    
    
《参考文献》
・『生物学の視座から』
  宮地伝三郎
  人文書院 1980年
    
・『日本の生態学』
  大串龍一
  東海大学出版会 1992年
    
・『アユの話』
  宮地伝三郎
  岩波書店 1960年
    
・『サルの話』
  宮地伝三郎
  岩波書店 1966年
    
・『俳風動物記』
  宮地伝三郎
  岩波書店 1984年
    
・『十二支動物誌』
  宮地伝三郎
  筑摩書房 1986年
    
・『宮地伝三郎動物記 第1巻〜第5巻』
  宮地伝三郎
  筑摩書房 1972年・1973年
    
・『渓流の本2 山女魚百態』
  宮地伝三郎・開高健・山本素石
  筑摩書房 1987年
    
・『生態学入門』
  日本生態学会編
  東京化学同人 2004年
    
・『大学1年生の なっとく!生態学』
  鷲谷いづみ
  講談社 2017年
    
    
《協力》
・京都大学生態学研究センター
    
    
[初出/FMふくやま月刊こども新聞2022年11月号]